相曽秀昭 (JAXA ) | |
"圧縮性Euler方程式, 双曲型非線形保存則のための差分近似の現状と課題について" | |
圧縮性Euler方程式をはじめとする非線形双曲型保存則の差分近似はその物理的解釈からしても有限体積法の考え方に基づく保存型差分近似が用いられることが多い. 特に衝撃波の捕獲が問題となる場合は弱解の概念との関連からも保存型差分近似は自然である. 数値計算のツールとしての差分近似は半世紀ほど前に提唱されたLax-Friedrichsの差分近似に始まり, この半世紀に大きな進歩を遂げた. とは言え, 非線形双曲型保存則の解の存在と一意性に関して未だ十分な結果が得られない故にその差分近似についても収束等についての厳密な議論が不十分であり, また, 数値的な興味から見た場合でも解の非線形性が強く出てくる衝撃波の周辺等に問題が残っている. ここでは保存型の差分近似を中心に非線形双曲型保存則の数値計算のために開発された差分近似の発展の経緯を概説すると共に, 未だに残る数値的な問題について紹介・考察を行いたい. | |
畔上秀幸 (名古屋大学 大学院情報科学研究科) | |
"形状最適化問題における高階のH1勾配法の可能性" | |
境界値問題の定義された領域の境界形状を設計対象にした最適化問題は形状最適化問題とよばれる.評価汎関数は境界値問題の解で構成される.形状変動に対する評価汎関数のガトー微分は形状微分とよばれ,勾配法ベースの解法を考える際に使われる.しかしながら,一般に,形状微分は境界の法線や平均曲率を含むために,形状微分の微分可能性は境界の滑らかさよりも低下する.その低下を補うために,著者らはH1勾配法と称した方法を提案してきた.ところが,平均曲率の微分可能性は境界の滑らかさよりも2階分低下する.それを補うためには,H1勾配法を繰り返し適用する方法が考えられる.講演では,その数理的妥当性について話題にする. | |
牛島照夫 (電気通信大学 名誉教授) | |
"温古知新 ─真理探究と数値シミュレーション─" | |
好奇心主導 (Curiosity Driven) と使命志向 (Mission Oriented) は, 科学研究における車の両輪である. 大胆に, 好奇心主導を真理探究に, 使命志向を数値シミュレーションに対比させる. 好奇心に駆られて, 豊かな計算環境を前提として, 古きを温ねるとどうなるのか. これまで定説とされて来たことの当否を真に検証出来るのではないか. あるいは, 思わぬ新規の発見・発展があるのではないか. このような思いを心に秘めて,「有限要素法による翼の等角写像の探究」をテーマとして, 学生諸君ならびに研究協力者の方と学んできた. そのまとめとして Ushijima, T. Handa, K. Nishizaki, H. and Chiba, F.: An FEM identification procedure for a Wing section within a class of finite Laurant series, Journal of Computational and Applied Mathematics, 232(2009)17-45. を発表した. この論文の概要と, そこで触れなかった事柄, 課題と夢を本講演で紹介する. | |
栄伸一郎 (九州大学 大学院数理学研究院) | |
"反応拡散系に現れる様々なパルスの挙動" | |
反応拡散系モデルは様々な現象の時・空間パターンを表現するために大変有効であることが知られているが, パルス状に局在した解はその中でも最も典型的なパターンの一つである. 本講演では, 反応拡散系の表すパルス状局在についてその様々な挙動を紹介し, いかに理論的に解析できるかについて述べたい. | |
岡本久 (京都大学 数理解析研究所) | |
"非線形発展方程式の解の爆発問題に対する差分近似" | |
非線形熱方程式や非線型波動方程式には解の爆発という現象が起き得る. これを数値計算でどう捉えるかは結構難しい問題である. 元の偏微分方程式ではきわめてよくわかっていることでも数値近似スキームでは話が微妙になることがある. こういったことがらについて, 最近私の周辺で得られた結果をご紹介したい. | |
金山寛 (九州大学 大学院工学研究院機械工学部門) | |
"領域分割法による水素拡散計算" | |
これまで熱対流方程式のアナロジーで水素の外部拡散問題を解く試みを行ってきた. 他方, 最近非定常Navier-Stokes方程式を特性曲線法で対称化し, 領域分割法で効率よく解くことが成功しつつある. 今回この方法を前述の水素拡散問題に応用することを検討している. 現時点での研究進展状況について紹介する. | |
菊地文雄 (東京大学 名誉教授) | |
"有限要素法の開発と解析: 平板の曲げ問題の場合, Development and analysis of FEM in the case of plate bending problems" | |
平板は構造力学での基本的な構造要素の一つで, その曲げ問題と有限要素解析は極めて古典的な話題ではある. しかし, たとえ3次元固体解析が十分に実用化しても, 薄い平板としてのモデル化は当分は必要であろう. そのような意味で, 講演者の限られた知見の範囲ではあるが, 平板のモデル化やFEMのいろいろな定式化を回顧・概観し, 今後の課題を検討することは, それなりに意義があろう. 今後の課題の例としては, 不連続関数を用いた近似の可能性や3次元固体要素と接続するときの遷移要素などが挙げられよう. | |
齊藤宣一 (東京大学 大学院数理科学研究科) | |
"Baba-Tabata型上流近似と走化性方程式の有限体積近似" | |
Baba-Tabata型の上流有限要素近似は,移流項の近似を三角形分割の双対メッシュで行うことに基づいており,移流拡散系の体積保存を離散的にも実現する.近年,細胞性粘菌の凝集現象を記述するモデルとして広く知られるKeller-Segel系(走化性方程式)に対し,このBaba-Tabata型の上流有限要素近似が有効であることが,明らかになった.この講演では,Keller-Segel系に対する保存的有限要素法を,有限体積法の文脈で再定式化することで,退化Keller-Segel系(すなわち,拡散が「有限伝搬的」)に有効な数値スキームを構成できることを報告したい. | |
田上大助 (九州大学 大学院数理学研究院) | |
"粘弾性流れ問題の有限要素解析" | |
人体における血液の流れや射出成型におけるプラススチックの流れといった粘弾性流れは, 理論的にも実用的にも重要な物理現象の一つであり, 数値計算によって現象を理解しようという試みが活発に行なわれている. 本講演では, 粘弾性流れ問題の数値計算に対する数理的な理論整備を進めていく第一歩として, 簡略化Oldroyd-Bモデルなどの数理モデルを用いた粘弾性流れ問題を取り上げ, 計算手法の提案とその数理的正当化を行う. | |
田端正久 (九州大学 大学院数理学研究院) | |
"流れ問題の数値解法─スキームと解析とシミュレーション" | |
移流拡散問題, Navier-Stokes問題, 混相流問題など, 流れ問題の数値計算スキームの開発と解析と応用について概観した後, 最新の結果, エネルギー安定特性曲線有限要素近似の導き方と有効性について講演する. 二流体問題のいくつかの数値シミュレーション結果についても論じる. | |
中尾充宏 (九州大学 大学院数理学研究院) | |
"数値シミュレーションと精度保証付き数値計算" | |
偏微分方程式の数値シミュレーションにおける誤差について考察し, それを厳密に把握するための方法としての, 精度保証付き数値計算法の現状と動向を探る. はじめに数値計算を誤差の混入の観点から階層的にモデル化し, 精度保証の考え方を概観する. 次に個々の階層における精度保証の数学的原理と実際を述べる. 特に, 講演者らがこれまで携わってきた定常Navier-Stokes方程式を含む楕円型境界値問題に対する精度保証技術の現状と今後の発展方向を考察する. | |
長山雅晴 (金沢大学 理工研究域数物科学系/JSTさきがけ) | |
"単安定興奮性反応拡散系に現れるカオスパルス波" | |
Gray-Scottモデルに対してパラメータを単安定興奮系に固定した場合を考える.ここで拡散係数をコントロールパラメータとすると,進行パルス波が不安定化し,脈動進行パルス波が出現する.分岐数値計算ソフトを用いて脈動進行パルスの解構造を求めた結果,脈動進行パルス波が周期倍分岐を起こすことがわかり,脈動進行パルス波がカオス運動する現象を発見した.本講演ではパルス波のカオス運動について報告する. | |
野津裕史 (産業技術総合研究所 水素材料先端科学研究センター) | |
"材料内の水素拡散問題への特性曲線有限要素法の適用" | |
特性曲線法は流れ場のなかにおかれた流体粒子あるいは物質原子の軌跡を考えて,その軌跡にそって離散化をおこなう,物理的視点から自然な数値解法である.本手法は他の手法にはない,現れる連立一次方程式の係数行列が対称という利点をもつ.この対称性により,連立一次方程式の求解が容易となる.材料内の静水応力勾配を流れ場と考えることにより,材料内の水素拡散現象を特性曲線法により離散化することが可能である.その解析結果を述べる. | |
萩原一郎 (東京工業大学 大学院理工学研究科) | |
"物造りに貢献するディジタル設計と応用数理" | |
CADデータからメッシュ生成しCAEを行なうことによって物造りに要す時間は大幅に短縮した. しかし, 実際により役立っているのは前の型あるいは他社の実物をもとに設計するリバースエンジニアリングである. この自動化は十分にはなされていない. 未だ多くの応用数理的な課題が山積している. ここでは主な課題とアプローチ法について述べる. | |
藤間昌一 (茨城大学 理学部) | |
"上流型有限要素法での点探索とアルゴリズム" | |
上流型有限要素法 (上流要素や上流点の選択型や特性曲線型) では, 上流点の探索が必要である. 例えば, $O(\sqrt{h})$の遠方にあるやや遠い上流点を探索する解析法でその計算の手間は大きくなる. この講演では, 探索での技術と課題を整理する. | |
松尾宇泰 (東京大学 大学院情報理工学系研究科) | |
"構造保存数値解法と有限要素法" | |
講演者, およびその共同研究者グループは, ここ10年ほど,「離散変分法」と呼ばれる構造保存数値解法の一種を集中的に研究し, 発展させてきた. さらに近年, 空間2・3次元の問題への対処を視野に, 差分法をベースとする離散変分法のアイデアをGalerkin法 (有限要素法) の枠組に移し替えた「離散偏導関数法」を展開し, より実用的な問題における構造保存数値解法の有用性の検証を目指している. 本講演では, この有限要素法版の試みの概略について述べ, さらに今後, 構造保存数値解法の分野で有限要素法が果たしていく役割に関して私見を述べる. | |
松本純一 (産業技術総合研究所 先進製造プロセス研究部門) | |
"直交基底気泡関数要素を用いた有限要素法による流体解析" | |
A special bubble function element composed of a linear element and a bubble function, which is termed an orthogonal bubble function element, is proposed in this research. The bubble function element orthogonally intersects the basis functions (shape functions), which means that the mass matrix is diagonal. Explicit schemes in time and the consistent pressure Poisson equation for the Navier-Stokes equations require the inverse of the mass matrix. It is effective to employ the orthogonal bubble function element with the diagonal mass matrix as a single concept. The authors have applied an approach to incompressible viscous flow using a bubble function element stabilization method with a stabilized operator control term to improve the numerical stability. The orthogonal basis bubble function element stabilization method is proposed for the incompressible and compressible viscous fluid problems. | |
村川秀樹 (富山大学 大学院理工学研究部(理学)) | |
"非線形交差拡散系の数値解法" | |
多成分反応拡散系において, 他の成分同士, 拡散が相互に依存しあっているときに, 拡散が交差していると言い, そのような系は交差拡散系と呼ばれる. 2種生物種の競合問題におけるお互いの動的な干渉作用を記述する重定-川崎-寺本モデルは非線形交差拡散を含む問題の代表例である. 非線形交差拡散系に対する効果的な数値解法は個別の問題に対して構成され, 解析されるのが現状である. 現象のモデリングを行う場合など, パラメータの変更のみでなく, 非線形項そのものを変えて多くの数値実験を行いたい場合がある. この様な状況に対応するために, 汎用的で簡便な数値解法が望まれる. 講演では, ある半線形問題を媒介することにより, そのような数値解法を導出し, 数値計算を通してその有用性を示す. | |